SiCセッター/棚板コーティングの違い

SiCセッター/棚板のコーティングの役割は前回の記事で書かせて頂きましたが、今回はそのコーティングについての補足です。当社SiCセッター/棚板のコーティングには1回目の焼成まで取れないようにする有機バインダーと、焼成後にセッター/棚板に焼き付ける無機バインダーが配合されています。しかしながら他社品には有機バインダーが入っていないような状態の物もあります。

下の写真は某K社販売のSiC棚板ですが、新品の状態で白いコーティングは直ぐに粉々に取れてしまい、運んでいる間にどんどんコーティングが取れて、いざ使おうという時には既にいくらかコーティングが薄くなってしまっています。

他社SiC棚板コーティング
他社SiC棚板新品コーティング脱落

これではちょっと何かに強く当たった部分は簡単にえぐれてしまいます。又、下の写真の通り新品の状態でコーティング面に丸く盛り上がった点が点在してしまっています。

他社SiC棚板コーティング表面状態
他社SiC棚板コーティング表面状態

これを焼成すると中の無機バインダーによって焼成後はこのコーティングの盛り上がりのまま固まってしまい、せっかくの新しい棚板表面も凸凹状態になってしまいます。

この様に同じコーティングでも各社違いがあり、SiC耐火物とコーティング材料の熱膨張率が異なる事から焼成時にコーティングが剥離してしまう危険があったり、それを避けるために焼成後でもかなり粉っぽい配合にすると焼成を重ねる毎にどんどんコーティングが飛んですぐに薄くなってしまったりと、意外にコーティングのノウハウも難しい部分が色々あります。当社はコーティングの材料選定から配合・塗布まで、ベストな状態のコーティングでSiCセッター/棚板をご提供致します。

SiCセッター/棚板のコーティング

(酸化物結合)SiCセッター/棚板表面には、通常片面にコーティングがされております。300x300x10t

これは上に載せる焼成物とSiCセッターが引っ付かないようにする役割を果たします。焼成雰囲気にもよりますが、焼成に使用すると通常SiCセッター表面には少しシリカ(SiO2)が生成され、高温ではネバネバした状態の物ですが冷えるとガラスのように固まり、焼成物がセッターに引っ付いてしまいます。また焼成物の方からも素地(きじ)や釉薬から耐火度の低い成分が溶け出してセッターに付着すると冷めた時に固まり同じくセッターに引っ付きます。

このコーティングは新品の状態ですと有機バインダーで軽く粉状の物が引っ付いているだけですので、硬い物で強くこすったり、水に濡れると剥がれて取れてしまいます

コーティングは1,100℃以上の温度で焼成されて初めて中の無機バインダーが適度に溶けセッターに焼き付く仕組みになっていますので、1,100℃未満(例えば700℃等)で初回焼いてしまうと中の有機バインダーだけ飛んでなくなってしまい、無機バインダーは溶け出さない為、炉から出すとコーティング表面は粉っぽく非常に取れやすい状態になってしまっています。尚その場合、その後そのまま1,100℃以上で再度焼成すればセッターに焼き付きます。

因みに一度1,100℃以上の焼成で焼きついたコーティングはしっかりセッターに固着していますので、その後は低い温度で焼成してもコーティングは取れやすくなったりはしません。

コーティングは離型剤のような役割ですので、固まりすぎてもその役割を果たさず、固まらなさ過ぎても直ぐにコーティングが飛んでなくなってしまうという事になりますので、焼成後は指でこすってかすかに粉っぽいような状態が離型剤の役割を果たしつつ長持ちするコーティングという事になります。

SiC耐火物の酸化による膨張と劣化

SiC耐火物の酸化による変化が如実に現れた例です。
左は当社の新品酸化物結合SiCで右は他社の使用後酸化物結合SiCです。
SiC酸化比較1
左:当社新品SiC     右:他社使用後SiC

右の物も元は左の物と同じような濃いグレー色をしており、サイズも左と同じサイズでしたが、炉の中で焼成を繰り返される事によりSiC+O2=SiO2+CというSiCの酸化反応によってSiCがSiO2(シリカ)に変化し、色が白っぽくなりサイズも膨張してしまいました。

SiC酸化比較2
左:当社新品SiC     右:他社使用後SiC

ここまで変化してしまうと、この2つが元は同じ外観をしていたなどとは全く想像できないかと思います。

右側の酸化されてしまったSiC耐火物の断面が下の写真です。

酸化された他社SiC耐火物の断面
酸化された他社SiC耐火物の断面

表面に近い方が色が白っぽくなっているのが判るかと思いますが、これは表面に近い方が酸化された度合いが強い為です。これくらいまでにSiCが酸化され膨張し劣化してしまうと、もはや耐火物としての役割・強度は無く、表面をこすればボロボロ白い粉が落ち、手でも端の方が折れるくらいです。

以前のブログ記事SiC耐火物の膨張と劣化でも書かせて頂きましたが、SiC耐火物の性能の良し悪しは「いかに酸化され難い性能をもっているか」という点で決まってくると言っても過言ではなく、当社販売酸化物結合SiCは、その原料選定から各製造工程におけるノウハウにより、耐酸化性能に優れた高品質SiC耐火物となっております。

反応焼結SiC(Si-SiC)の形状・サイズの制限

SiC耐火物の中でも強度があり、熱伝導率も良い反応焼結SiCですが、製造方法や緻密質という特徴から形状やサイズに制限があります。

反応焼結SiC(Si-SiC)
反応焼結SiC(Si-SiC)

反応焼結SiC(Si-SiC)は、気孔のあるポーラスなSiCの成形体に金属シリコン(Si)を含浸させて緻密体を作る事により、高強度・高熱伝導率・高耐酸化性能を有する耐火物になりますが、その肉厚に差があると金属シリコンを含浸させる際に含浸具合が不均一になり、薄い部分に合わせると厚い部分が”含浸不足”になり、厚い部分に合わせると薄い部分が”焼けすぎ”になり反りが発生したりしますので、基本的には均一な厚みの形状しか製造できません。

また肉厚が12mm(小さな物だと15mm)より厚いと含浸し切れないので、厚みは12mm以下(もしくは15mm以下)である必要があり、また他の耐火物でも同じですが、薄すぎても製造し難くなりますので、サイズにもよりますが一番薄くて5mmくらいの肉厚となります。

また緻密体であるが故に、製造工程で反りや割れが発生せずに作れるサイズも(要求される反り公差にもよりますが)約500x400mm くらいまでが限界です。

SiC棚板コーティングの水濡れによる溶け

SiC棚板(酸化物結合SiC)には通常、製品と棚板が引っ付くのを防止する為コーティングがしてあります。
SiC棚板コーティング

この粉状の白いコーティングは有機バインダーによってSiC棚板に軽く引っ付いているだけで、1,100℃以上で焼成されるとコーティング中の無機バインダーによって初めて棚板にしっかり焼き付く様な配合になっております(因みに、有機バインダーは1回目の焼成過程の数百度で焼けてなくなってしまいます)。

この新品(未焼成)の状態のコーティング面に水がかかるとすぐに水を吸ってしまいます。
SiC棚板コーティング濡れ

水を吸ったコーティングはふやけて軟らかく溶けてしまい、指でこすると下の写真のような状態になります。
SiC棚板コーティング濡れて溶けた状態

因みに一度濡れてしまったコーティングは、乾かした時にめくり上がってはがれたり、焼成時にはがれてしまいます。ですので、特に新品のSiC棚板は水濡れにご注意下さい。尚、逆にコーティングが必要ない場合は、新品時(焼成前)に高圧洗浄機等で水で洗い流せば除去できます。

Si-SiC(反応焼結SiC)の劣化

一番酸化されにくく、1,350℃以下であれば一番耐久性のあるSi-SiC(反応焼結SiC)でも長年使っているとやはり劣化はします。下の写真は実際に使用されているSi-SiCビームですが、表面がかなり白っぽくなっているのが判るかと思います。
Si-SiCビーム劣化現場

Si-SiCも他のSiC耐火物と同じく、劣化=酸化される事で、含浸された金属シリコン(Si)やSiCが長年の使用を繰り返す内に少しずつ酸化されSiO2となり白く表面に析出してきます。
Si-SiCビーム劣化1

表面にガラス状のテカテカしたものが付いていたり、表面に白い粉や薄い片の層が出来ていたりしており、表面の白い部分は触るとパラパラと取れて落ちます。また下の写真のようにビーム内側に白くSiO2が析出したりもします。
Si-SiCビーム劣化2

こうなってくると本来、金属シリコン(Si)を含浸させることによって強度を得ていた物が「骨粗そう症」の様な状態になり、割れたり、折れたり、チッピングしやすくなったりします。

SiCと鉄の反応

SiCと高温の鉄は反応します。テストとして、SiCセッター成形時にわざと極小さな鉄片をセッターの中に入れ、1400℃以上で焼成してみた結果、下の写真の様になりました。SiC棚板鉄高温反応

鉄がSiCと激しく反応し、SiC棚板自体に穴をあけ、ぶくが発生しました。

これは極端な実験ですが、SiCが鉄と高温で接すると、SiCが反応してしまいますので注意が必要です。

SiCが侵される物

SiCは硫酸や塩酸にも反応せず、化学品に対しても非常に強い材質です。しかしSiCでも反応して侵される物があり、それは

  • ナトリウム
  • フッ素
  • アルミニウム
  • (高温の)鉄
です。下の写真は溶解アルミ保持炉のアッパーヒーターに付けられていた他社のSiC保護管です。
劣化したSiC保護管
劣化した他社SiC保護管

アルミのはね返りやフラックス中の成分によって侵された可能性がありますが、このような場合はSiC保護管の中でもN-SiC(窒化物結合SiC)の保護管が比較的侵されにくく耐久性があると思います。

SiC棚板の酸化とボロ降り

下の写真は陶器の酸化焼成に使われたSiC棚板の裏面です。

SiC棚板裏面
SiC棚板裏面
裏面アップ
裏面アップ

このSiC棚板は他社製で約2年ほど使用されておりますが、このところSiC棚板の裏面からボロが降って陶器の製品の上にくっ付いてしまうという問題が起きております。実際に指で裏面をなでてみると確かに小さな粒状の物がとれて指先にくっつき、また裏面を手でこすってみてもパラパラと粒が落ちるといった状態です(下写真)。
SiC棚板裏面チェック
SiC棚板裏面ボロふり

通常この手の酸化物結合SiC棚板は約300~600サイクル使用できるというのが一般論ですが、この棚板の使用期間は約2年間で約200サイクル弱使用しただけで、表面のSiC粒がポロポロ取れる状態にまで劣化してしまっております。この様な状態ですと、台車を動かしてトラバーサーの上を通過した時の振動や、焼成過程で棚板が熱で膨張した時などに棚板の裏面からボロが下の製品に落ちてしまいます。

通常よりも早くSiC棚板が劣化した原因として考えられるのは焼成雰囲気の問題です。SiC耐火物は酸化される事により劣化します。今回のケースも焼成温度が1200℃弱の酸化焼成ということで、一般的に1150℃±50℃くらいの範囲がSiC棚板が一番酸化されやすい温度帯と言われております(但し、雰囲気によってもかなり差がありますので、一概に1150℃前後が全て一番良くないとも断言できませんが)。

また、SiC棚板自体の性能によっても当然差は出てきます。「性能の良い耐久性のあるSiC棚板=酸化されにくい棚板」という事が言えます。

耐火物の形状と割れやすさの関係

同じ耐火物でも形状によって割れやすさ/割れにくさには違いがあります。耐火物の割れ(クラック)は、端と中心や表面と内側などに温度差が出来た時に生まれる”膨張・収縮の差=歪”に耐火物が耐えられなくなった時に発生します(詳しくは以前のブログ「SiC棚板が割れる原因とスリット(切込)の目的」をご参照下さい)。

例えば長方形の板の場合と正方形の板の場合、割れやすさには差があります。

長細い形状の板の場合、昇温時の伸び、降温時の縮みといった歪を長手方向の伸び縮みで吸収し、結果比較的割れ難くなります。

形状と割れ1

一方正方形に近い形状の場合、昇温時の伸び、降温時の縮みの歪の逃げ場がなく割れ(クラック)が発生しやすくなります。形状と割れ2

特に降温時に割れが発生しやすいと言われており、この場合、温度が下がって来た端は収縮し始めますが、中心部はまだ温度が高く膨張したままで、その結果縮もうとする端が縮みきれずに端から中心部に向かってクラックが入るという現象です。