酸化によるSiC棚板のSiC(炭化ケイ素)%減少

SiC棚板等のSiC耐火物は大気雰囲気で焼成されると徐々に酸化されて行き、反りや膨張が発生し本来の強度も落ちてゆきます。SiC(炭化ケイ素)が酸化されるとSiO2(シリカ)が生成されSiCの%は減ってゆきますが、酸化の程度の違いによって実際にどのくらいSiC%が減っているのかを分析しました。

下の写真のSiC棚板はかなり使用され裏面にシリカも多く出ており棚板として使うにはほぼ限界に近い程度の物です*ここではSiC棚板(反り中)とします。warped SiC

下の写真は本来は棚板ですが、煙道カバーとしてカートップに設置され続け、結果激しく酸化してしまい、これ以上酸化された状態のSiCはめったに見られないというくらいの程度の物です*ここではSiC棚板(反り大)とします。heavily warped SiC(反り大)は近くで見ると判る通り、SiC本来の光沢も消えガサガサした感じです。
heavily warped SiC UP

この2つのSiC棚板を分析用に細かく砕いたのが下です。Grinded 2 samples SiC comparison

色合いと光沢具合の違いが良くわかるかと思います。

それぞれのSiC%をセラミックス試験場で分析した結果が下です。SiC % analysis results

SiC棚板の新品はSiC=約90%ですので、棚板として寿命の限界程度に酸化した物(反り中)がSiC=85.4%、それ以上に極端に酸化された物がSiC=81.7%という結果になり、見た目なりにSiC%が減少しているという結果になりました。

SiC耐火物の水蒸気による腐食

SiC(炭化ケイ素)耐火物は炉内に水蒸気がある環境下ですと、激しく腐食してしまいます。SiC corrosion

SiCが元の濃いグレー色から薄い白っぽい色になり、反ったり割れたり膨張したりし、強度も著しく落ち、固いSiC耐火物がボソボソになってしまいます。SiC corrosion UP

これは水蒸気によって粒界腐食が起き、SiC (炭化ケイ素)とH2O(水) が反応し、SiO2(シリカ)やSi(OH)4(ケイ酸)等が生成されるメカニズムの様です。実験によると300℃でもSiCの粒界腐食を起こすとの事ですので、製品の釉薬が十分に乾ききっていない場合、SiC棚板にアルミナコーティングを塗った後十分に乾ききっていない場合、又は連続熱処理炉で冷却水が炉内に侵入してしまうような場合は、明らかにSiC耐火物に対して悪影響を及ぼしますので注意が必要です。

参考資料「材料と環境49(11)2000 P706~709 300℃の水蒸気中における炭化ケイ素焼結体の腐食挙動」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcorr1991/49/11/49_11_706/_pdf

 

フォークリフト式シャトル炉

シャトル炉でも一般的には台車があり、台車の上にSiC棚板等で棚組して製品を積載し台車ごと炉に入れますが、愛知県の築炉メーカーM社のシャトル炉(デュポー式 LPGキルン)では、台車を無くし、代わりに巨大な3本ツメの専用フォークリフトを使って棚組ごと直接炉に入れます。lift and kiln

台車が無い代わりに、下の写真の様に「製品仕込み台」と言われる台の上で棚組し製品を載せて行きます。SiC shelves before firing

それを巨大な3本ツメの電動フォークリフトで丸ごと持ち上げ、そのまま炉に入れます。この地元の製陶所様の炉は約4㎥で、1窯分を丸ごと一気に窯入れ・窯出しします。

SiC shelves with lift

この炉のメリットは台車が無いおかげで炉内が完全密封型で、炉内温度分布や炉内雰囲気を均一にコントロールしやすい点です。又窯おこし後は1窯分を丸ごとリフトで好きな場所に移動できる為、作業効率が良いとの事です。こちらの製陶所様では炉は2基あり、Vの字に配置されています。

小型トンネルキルンその2

前回に続き別の小型のトンネルキルンです。M Mini tunnel kiln A

地元の築炉メーカーM社製で「マイティーキルン」という名前が付いています。こちらの製陶所様の炉は全長40m、台車長さ1,500mm、炉内台車26台車、操業は送車40分/台車でIn/Out 17時間、1,300℃還元焼成です。M Mini tunnel kiln B

前回の製陶所様と違いこちらはサヤ(匣鉢)が約85%、SiC棚板が約15%の割合で台車が組まれています。M Mini tunnel kiln C

こちらの炉もレールは床の上に設置されている仕様です。

小型トンネルキルンその1

連続焼成炉であるトンネルキルンの小型版です。T Mini tunnel A

地元の築炉メーカーT社製で「ミニトン」と呼ばれる炉です。こちらの製陶所様の炉は全長30m、台車長さ900mm、炉内台車30台車、操業は送車24分/台車でIn/Out 12時間、1,220 - 1,250℃酸化焼成で、全てSiC棚板によって台車が組まれています。T Mini tunnel B通常のトンネルキルンと「ミニトン」の違いは、炉・台車のサイズはもちろんですが、通常のトンネルキルンは台車のレールが床に埋め込まれているのに対し、「ミニトン」は床の上にレールが設置されている点です。尚、「ミニトン」はコンパクトな設計ですが、それがゆえにヒートカーブが急だったりと耐火物にとっては消耗しやすい厳しい条件である場合が多いです。

トンネルキルン

前回記事のローラーハースキルンとは別の連続焼成炉であるトンネルキルンです。Tunnel kiln

セラミックス焼成炉の中では一番焼成量を多くできる炉で、棚組みされた台車が連続して炉に入ってゆきます。耐火物にとってはローラーハースよりも優しく、シャトル炉よりは厳しい条件の場合が多いです。

大量生産に向く焼成炉で製品当たりの焼成コストは一番安くなりますが、逆に一定量の製品投入が必要な為、多品種小ロット傾向の最近の日本では少なくなってきている炉の種類です。

ローラーハースキルン

前回記事の様に支柱で上に高く棚組みするシャトル炉とは対照的に、1段ないし2段のみで炉に入っていくローラーハースキルンという炉があります。Roller Hearth Kiln

ローラーハース:Roller Hearth(=ローラーの炉床)式のKiln(=炉)という意味で、セラミックス焼成炉の1種で、写真のローラーが回転し、セッターを炉に搬送してゆく連続焼成炉です。

特徴は炉内高さが低いので各製品にかかる温度を均一にしやすく、焼き上がり寸法や色などが均一になりやすいのと、全方向から加熱できる為比較的短時間での迅速焼成が可能な点です。ただしヒートカーブは急なので耐火物にとっては厳しい条件ではあります。

ムライト支柱組台車

前回記事のスペースを大きく取ったSi-SiCビーム組台車とは対照的に、低めのムライト支柱で隙間なく組まれた台車の写真です。Highly filled Kiln Car

シャトル窯で食器を焼成する際の一般的な棚組方式で、SiC棚板1枚当たりL型ムライト支柱を3個使用し棚組みしています。立ちの低い皿系統の製品が多い為それに合わせて低めの支柱を使い、なかなかの充填率になっています。

Si-SiC(反応焼結SiC)ビーム組台車

少し前の海外の写真となりますが、Si-SiC(反応焼結SiC)ビームと酸化物結合SiC支柱を組み合わせた台車の写真です(棚板も酸化物結合SiC棚板)。SiSiC Beam kiln carSi-SiCビーム台車の特徴は支柱の数を減らし空間を広く取る事により大物製品の焼成において窯詰め/窯出しの作業効率が良くなりますし、支柱の数が減る事でガスの省エネも期待できます。また、ビーム=線で棚板を支える形になりますので、SiC棚板の反り軽減にもなります。

尚、写真の台車は支柱を台車に埋め込まずにカートップの上に設置するという日本ではあまり見られないタイプです。

SiCと硫化物の爆発的反応

ある食器メーカー様より「1枚の棚板だけ支柱の周りを中心にSiCがはじけて、製品上にまで飛んだ」という連絡を受けました。下がその時の写真です。SiC Sulfide 1

かなり激しく表面がコーティングごとはじけ飛んでいるのが見て判ります。SiC Sulfide 4UP

又、見事に支柱の周りだけですので、支柱が原因だと推測し色々調べました。SiC Sulfide 3

工場内の支柱置き場に置いてあった他の支柱を確認したところ、黒っぽい粉が支柱の上に載っており、分析したところその粉からは酸化カルシウム(CaO)と三酸化硫黄(SO3)が多く検出されました。これら2物質は炉内昇温過程で化合し硫酸カルシウム(CaSO4)となり、硫酸カルシウム等の硫化物とSiCはある温度に達すると爆発的反応を起こします。この黒っぽい粉は、状況的にも成分的にも支柱置き場の上の天井スレートの一部が降った物と考えられます(スレート成分にはCaとSO3が含まれますので)。SiC Sulfide cause即ち今回の問題の原因は「天井スレートからの落下物が支柱の上に載り、それが炉内高温下でSiCと接触し爆発的反応を起こした」という事になります。

海外の現場でも同様の現象が起きております。SiC Sulfide 4

石膏型にもCaOとSO3が含まれますので、石膏が焼成前の製品に付着したりすると同様の現象が起こる可能性がありますので注意が必要です。