窒化物結合SiC(N-SiC)の表面処理被膜

窒化物結合SiC(N-SiC)とはSiCを窒化ケイ素(Si3N4)によって結合させた耐火物で、化学成分としてはSi3N4が約25%、SiCが約65%と言った割合になります。

NSiCビーム
NSiC保護管
N-SiCは上の写真のようなビームや保護管で使われます。一般的には約1200~1450℃の間の温度帯に常に入っている条件での使用では、N-SiC耐火物の性能を一番発揮できるといわれており、1000~1150℃未満くらいですと低温酸化領域での使用となり、SiCが酸化され劣化されやすくなってしまいます。

N-SiC耐火物は鋳込み成形品で、原料は細かいものが使われております。もとの成形品には気孔率がありますが、SiCの耐酸化性能アップの為、通常表面処理をして表面全体をシリカ(SiO2)層で覆い、処理後のN-SiC耐火物その物の気孔率は1%未満となっております。そのため下の写真の様に表面がテカテカしております。


N-SiCビーム表面
N-SiCビーム表面

又、下写真はN-SiC保護管ですが、くびれ部分は後加工をした部分で、この部分には耐酸化被膜はなく気孔率がありますが、その他の部分には被膜があり、テカテカしております。


N-SiC保護管表面
N-SiC保護管表面

窒化物結合SiC(N-SiC)の詳細データはこちらに掲載しております。

再結晶SiC(Re-SiC)の表面状態

再結晶SiC(Re-SiC)はSiC99%の耐火物であり、最高使用温度が1600℃までとSiC耐火物の中では一番高温まで使える部類の物になります。

再結晶SiC板
再結晶SiC板

再結晶SiC耐火物は鋳込み成形で作られますので、プレス成形の酸化物結合SiC耐火物より細かい原料が使用されますが、気孔率が約15%あり、表面は”ヤスリ”のような状態で多少ザラザラしております(下写真)。

再結晶SiC板の表面
再結晶SiC板の表面

 因みに、写真で細かく白い点が見えるのは、SiCが光に反射している為です。太陽光の下などで見るとキラキラしてまぶしいくらいです。

再結晶SiCも、板形状・サヤ形状・中空ビーム形状等製作可能です。再結晶SiC(Re-SiC)の詳細データはこちらに掲載しております。

酸化物結合SiC耐火物の原料粒度と表面状態

セラミック製品の焼成等に一般的に良く使われる一番安価な酸化物結合SiC棚板/耐火物は、他のSiC耐火物(反応焼結SiC、窒化物結合SiC、再結晶SiC)や高温用アルミナセッターと比べ表面状態は少々粗いものとなります。これは酸化物結合SiC耐火物の場合、粒度の異なる何種類かのSiC原料をプレス成形し製造する為で、粗い粒度の原料を入れることによりそれが骨材となり、強度・耐久性が出るのですが、反面どうしても表面に小さな凹部分ができます(下写真)。


酸化物結合SiC板コーティング表面
酸化物結合SiC棚板コーティング表面

表面のコーティングを取った状態は下写真となります。


酸化物結合SiC板表面
酸化物結合SiC棚板表面
金型を作れば多少複雑な形状も製造可能で、下写真の様になります。

酸化物結合SiC耐火物例
酸化物結合SiC耐火物の例

この様な表面状態になるのは、SiC原料の場合アルミナ・ムライト系原料と違いプレス成形時の原料の流動性が良くない為で、表面が少し粗いからと言ってプレス時の締りが悪いという訳ではありません。尚、板形状の場合一般的には厚い物は粗い原料を多くし、薄いものは細かい原料を多くしたりと、その形状・厚みに対し最適な粒度配合で製造されます。

又、通常よりも細かめの粒度で製造した場合表面の凹部は少なくなり比較的滑らかな表面になりまずが、耐火物としての性能は少し劣る物となります(急熱・急冷に対する割れの発生等)。下の写真は細粒構成で作った酸化物結合SiC板を更に表面研磨したもので、多少のピンホールは表面に出ますが、ほぼ鏡面状態になっております。

細粒構成の酸化物結合SiC表面研磨後
細粒構成の酸化物結合SiC板表面研磨後

尚、SiC耐火物は非常に硬く、ダイアモンド工具でないと加工はできませんので、研磨加工費は結構高いものになります。

新品SiC棚板の微細クラックによる焼成時の割れ

ある顧客に納入した新品SiC棚板が、使い始めて3回目・4回目の焼成時に炉の中で下の写真のように割れてしまいました。

微細クラックによる割れ1

微細クラックによる割れ2

見てお判りの方もいらっしゃるかも知れませんが、通常の熱衝撃による割れ方とは違い、何らかの機械的衝撃によって割れた時のような割れ方をしており、しかもどれも似たような亀裂の入り方です。割れた時の状況として、温度上昇中の約600℃くらいの時に割れが発生したのを確認しておりますが、通常熱衝撃で割れる場合は温度が下がる時の方が多いと言われております。

また更に不思議なのは新品から使用し3回目・4回目の焼成時に割れたという点です(通常板に問題がある場合は1回目の焼成で割れる場合がほとんどですので)。しかも、下の写真の様にSiC棚板の割れた箇所の下段の製品にはその上段の棚板の亀裂に沿ってSiCの粉が落ちて付着しておりました。


左:下段製品に落ちたSiC粉 右:上段SiC棚板の亀裂
左:下段製品に落ちたSiC粉 右:上段SiC棚板の亀裂

当初全く原因が判りませんでしたが、調べていくうちに”新品の未使用時に、立てかけていたこのSiC棚板を何枚か地面に倒していた”という事が判りました。

即ち、この現象は「新品未使用時に地面に棚板を倒した事により完全には割れていないが棚板に微細クラックが入り、初回~2, 3回までの焼成には耐えたが、3, 4回目の焼成時に耐え切れずに割れた」という事になります。又、初回~2, 3回の焼成時にその微細クラック部分は焼成時の棚板の膨張・収縮により、クラック断面が擦れてSiC粉が生成され微細クラック断面に蓄積し、焼成3, 4回目に割れた時いっきに下の製品にそのSiC粉が落ちて付着したという事になります。

非常に珍しいケースですが、今回のような現象が起きたメカニズムは「新品時に機械的衝撃により出来た微細クラックが、初回~2, 3回の焼成の間にじょじょに亀裂が大きくなり3,4回目の焼成で最終的に完全に割れた」という事になります。

新形状瓦焼成用SiC耐火物

この度、大幸セラミック独自の新デザイン瓦焼成用SiC棚棒(受台)を開発しました。<意匠登録第1410233号>

大幸セラミック・新形状瓦焼成用SiC棚棒
大幸セラミック・新形状瓦焼成用SiC耐火物

SiC棚棒(受台)に板形状のSiCセッターを差込み突起部で斜めに支え、瓦をそのセッターに立掛け安定させ焼成するという以前からよくある方式の瓦焼成用の酸化物結合SiC製窯道具です。当社の開発した新形状SiC棚棒は、従来の他社製品と比べ約5~10%の軽量化を実現すると同時に、プレス成形品である事から抗折力の有る粒度配合と中までしっかり詰まった低気孔率が寄与し、曲がりに対しても強いものとなっております。

又、他社従来品では立体的な瓦形状や瓦引っ掛け用突出部がSiC棚棒の突起部に接触し製品の瓦が破損するケースがありましたが、当社新形状は瓦の載るスペースが最大限広く設計されており、この問題を解決しました(下写真)。

大幸セラミックSiC棚棒の瓦積載部
大幸セラミックSiC棚棒の瓦積載部

更には差し込まれるSiCセッターのヒートショックによる割れを軽減する為、セッターを支持する突起部形状に当社独自の工夫がされております。

セッターを差し込む棚棒上面の溝とセッターを斜めに支える突起部が連続した傾斜面になっておらず一部空間が空く形でセッターを支える事によりセッター棚棒接触部に熱がこもり難い支持方法にし、セッター根元部とセッター上部の温度差によって起こるセッター根元付近の割れを軽減します(下写真)。

SiC棚棒とSiCセッター間の空間
SiC棚棒とSiCセッター間の空間

又、出来るだけセッターの縁を棚棒突起部が支える事により温度差によるセッター根元付近の割れを軽減します(下写真)。

SiC棚棒突起部のセッター支持位置
SiC棚棒突起部のセッター支持位置

この温度差(ヒートショック)によるセッター根元の割れに関する詳しい説明はこちらのブログをご覧下さい。

この様に大幸セラミック新形状SiC棚棒はセッター側の寿命も延ばすべく独自の形状となっております。また当社の場合、棚棒とセッター・製品の引っ付き防止の為上面吹き付けコーティング加工も追加費用無しで対応しております。

瓦焼成用SiCセッターの割れの原因とその対策

瓦焼成風景
瓦焼成風景

瓦の焼成は、板形状のSiCセッターをSiC棚棒に差込みそのセッターに立掛けて焼成しますが、そのSiCセッターが割れる箇所は棚棒と接する根元部分が多いです(下写真)。

SiCセッターの割れ方
SiCセッターの割れ方

これは荷重で割れると言うよりもヒートショック(熱衝撃)によって割れる原因が大きいと考えられます(上の写真の通りセッターの傾きは20度くらいですのでセッターにさほど荷重はかかりません)。

最高温度約1140℃、焼成時間10時間強と言った条件で瓦は焼成されますが、温度が下がっていく過程で体積の大きい中実材のSiC棚棒はなかなか温度が下がらず、厚み8mmの薄い板形状SiCセッターはそれよりも温度が早く下がろうとします。その場合、棚棒と接しているセッター根元部分は棚棒からの熱を受け根元部だけなかなか温度が下がらず、結果棚棒と接していないセッターのそれより上の部分と温度差ができ、収縮率の違いで歪ができ、セッターにクラックが入るという原理です。

SiC棚棒とSiCセッター割れ
SiC棚棒とSiCセッター割れ

その対策として、当社新形状SiC棚棒は、セッターを差し込む棚棒上面の溝とセッターを斜めに支える突起部が連続した傾斜面になっておらず一部空間が空く形でセッターを支える事によりセッターと棚棒の接触部分に熱がこもり難くし、セッターが棚棒から受ける熱を軽減しています。

SiC棚棒とSicセッターの空間
大幸セラミック新形状SiC棚棒とSicセッターの空間

又、板形状は温度が下がる時、縁部分から下がってゆきますので、元々板の縁と中心では温度差が必ず発生しますが、中心近くで物が接しているとその部分の温度の下がりが更に遅くなり、即ち更に縁と中心の温度差が大きくなり割れやすくなります。

その対策として、当社新形状SiC棚棒は突起部がセッターを支える箇所も出来るだけセッターの縁で支える様にし、棚棒と接するセッター根元部とセッター上部の温度差(ヒートショック)を軽減し、セッター根元付近の割れを防ぎし、セッター側の寿命を延ばす試みがなされております。

SiCセッター支持部分
大幸セラミックSiC棚棒のSiCセッター支持部分

ムライト質耐火物の品質の差

ムライト(酸化アルミニウム(Al2O3)とケイ素(SiO2)の化合物)を主原料にした耐火物も一般的に良く使われる白物耐火物です。下の写真は他社製ムライト質支柱の写真です。


他社製ムライト質支柱
他社製ムライト質支柱

 約1年使用しただけでこの様に角や表面がボロボロと取れ、一部では欠けも発生してしまっており品質的に問題があると言わざるを得ません。考えられる原因としては

  • プレス成形時のプレス圧が足りない
  • 粗い原料の繋ぎ材となる細かい原料が足りない
  • 製造時の焼成温度が低い

等の事が考えられます。大物になればなるほど成形時のプレス圧が必要ですが均一にしっかり圧をかけるのは難しくなりますし、支柱の高さを一定にするためプレス成形時にはストッパーでプレス後一定の高さになるように調整しますが、そうなるとしっかりプレス圧を均一にかけるのが更に難しくなります。また大物の場合は粗い原料を多く使って骨材にし、変形を抑える必要も出てきますが、同時に原料の繋ぎ材としてコーディライトを多目に入れ割れを防ぐ必要もあり、コーディライトを多く入れると製造時の焼成で高温焼成が出来なくなり圧縮強度や耐火度が落ちます。


他社製ムライト支柱拡大写真
他社製ムライト支柱拡大写真

この様に大物のムライト質耐火物はしっかりした物を作るには色々と難しい要素がありますが、これらを克服した物が下写真の右の当社販売ムライト質耐火物で、左の他社製と比べても違いが判ると思います。


左:他社製ムライト支柱 右:当社ムライト支柱
左:他社製ムライト支柱 右:当社ムライト支柱

当社の物は適切な原料配合・十分なプレス成形圧と高温焼成によってしっかり焼きしまったムライト質支柱で、最高使用温度1,500℃です。

当社ムライト質支柱
当社ムライト質支柱

ムライト質耐火物は形状・大きさ・使用温度・使用条件等によって原料配合が色々と変わりますが、そのノウハウが品質の差になってきます。またやみくもにアルミナ%を高くしてもオーバースペックとなり不必要に価格が高くなってしまいますので、条件にあった適切な配合選択はコスト削減には不可欠です。

Si-SiC(反応焼結SiC)が最高使用温度を超えると?

Si-SiC(反応焼結SiC)の最高使用温度は1350℃ですが、その温度付近になると成分中のSi(金属シリコン)が溶け出してきてしまいます。
下の写真は食器の還元焼成(約1340~1350℃)で他社のSi-SiC製棚板が使われた例です。

Si-SiCblog1

コーティングの無い裏面の写真ですが、シリコンが溶け出して表面がガラス状にテカテカしているのがわかると思います。
下は裏面と表面のアップ写真です。

Si-SiCblog2

表面は元々あるコーティングが溶け出した金属シリコンのせいで剥がれてしまっています。
Si-SiC(反応焼結SiC)は文字通り、金属シリコンを含浸・反応させSiCを焼結させる事により、ほぼ緻密体のSiC耐火物となっております。1350℃手前くらいまでは機械的強度も非常に強く、緻密体であるが故に耐酸化性能も良く非常に耐久性がありますが、間違った温度で使用してしまうとこの様になってしまいます。
Si-SiCはSiC耐火物の中では最高使用温度が1350℃と比較的低いので注意が必要です。
各種SiC耐火物の詳細は大幸セラミック高機能SiC耐火物ページをご参照下さい。

SiC耐火物の機械的強度と温度の関係

前回ブログの最後に少し述べましたが、SiC耐火物は他のアルミナ・ムライト等のいわゆる白物の耐火物と違い、温度が上がっても機械的強度は下がらず、逆に強度は若干上がるという非常にユニークな特性を持っております。

酸化物系セラミックス(アルミナ等)は一般的にイオン結合性が強く、高温になると強度が落ちる物が多いですが、SiC(炭化ケイ素)はダイヤモンド等と同じく共有結合性が強く、そもそも高温強度が強い為、最高使用温度以下なら温度が上がっても強度は落ちません。
更に、SiCの場合は温度上昇に伴い結晶の並びが整い内部の歪が減少する事により機械的強度が増すと言われております。

*大幸セラミック「SiC耐火物テクニカルデータ」はこちらをご参照下さい

すなわち、SiC耐火物の場合、常温で壊れない焼成物の荷重なら(最高使用温度以下の)高温でも荷重によって耐火物が壊れる事はないという事になります。一般的な「温度が上がれば物は柔らかくなる」という常識にSiC(炭化ケイ素)の場合は当てはまらないのです。
尚、実際には焼成過程でSiC耐火物が割れる場合がありますが、その原因のほとんどが温度の不均一により起こる熱衝撃が原因と考えられます。

 

焼成
焼成風景

SiC棚板の割れやすい例

SiC棚板が割れる原因は、板の端の部分と中心部分に温度差ができ、膨張・収縮率の差による歪によって割れる場合がほとんどです(詳しくは以前のブログ記事「SiC棚板が割れる原因とスリットの目的」をご参照下さい)。ではどのような場合が板に大きな温度差を生じ、板が割れやすいか例を挙げて説明致します。

下図の例1)の様に棚板の中心部分に熱を蓄積しやすい分厚い形状や重たい物がある場合がまず挙げられます。
棚板割れやすいパターン1

この場合炉内の温度が下がっていく過程で、焼成物のセラミックはSiC棚板よりも熱伝導率が悪いのでなかなか温度が下がりません。SiC棚板も端の部分から温度が下がって行き、板の中心部分は元々遅れて温度が下がってゆくのですが、その中心部分にまだ熱い焼成物があるせいで板の中心部分の温度の下がりが更に遅くなり、板の端の部分と中心部分の温度差が大きくなり、SiC棚板が割れやすくなります。

次に例2)のように棚板の間隔が狭く、焼成物もぎっしり載せられ空間が少ない場合です。
棚板割れやすいパターン2

この場合も同じく炉内の温度が下がっていく過程で、棚板の中心部分に熱がこもりやすくなり、板の端と中心部分の温度差が大きくなり、SiC棚板が割れやすくなります。

上記のような焼成物の載せ方以外にも、電気炉の場合は周りからヒーターで強力に加熱され、ガス炉に比べ炉内の対流が少ない為に温度上昇時に割れやすいとか、小さい炉の場合は炉壁が薄い為に、炉内の温度の下がり方が急で棚板の端の部分の温度が早く下がりやすく割れやすいなど、さまざまな場合が挙げられます。     しかしながら実際は、SiC棚板の大きさ、棚板のスリットの有無、焼成カーブや炉内の温度差のでき方など様々な要因により、SiC棚板が割れる/割れないが決まってきますので、一概にどういった場合が割れるかというのは簡単には言えません。

SiC棚板の厚さを厚くすれば、薄い板よりも1枚の板の中での温度差が比較的出来にくくなりますし、また温度差による歪に対しても物理的な抵抗力が強くなりますので、割れにくくなります。

尚、SiC棚板の場合は「焼成物が重いから割れる」というのは実は当てはまらず、焼成物の重さが直接の割れの原因にはなりません。SiCの場合は他のアルミナ・ムライト等の白物の耐火物と違い、温度が上がっても物理的強度は下がらず、逆に強度は若干上がるくらいですので、簡単に言うと室温で焼成物を載せて板が割れない場合は、高温になっても重さで割れるという事にはなりません。このお話は次回ブログにて。